心地よい家族時間のために:デジタル利用の基準を話し合い、見直す方法
現代の家族が直面するデジタル利用の課題
現代の多くのご家庭では、スマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスが生活の一部となっています。子供たちの学習や遊び、親御さんの情報収集やコミュニケーションなど、その便利さは計り知れません。しかし、それに伴い、「子供の利用時間が増えすぎて心配」「自分自身のスマホを見る時間が多くて、子供との関わる時間が減っている気がする」「家族で一緒にいるのに、それぞれが画面を見ている」といったお悩みも増えているのではないでしょうか。
単に利用を制限するだけでは、かえって反発を招いたり、息苦しさを感じたりすることもあります。大切なのは、家族みんながデジタルと上手に付き合い、心地よく過ごせる時間や関係性を育むことです。この記事では、家族にとって本当に大切な時間とは何かを考え、デジタル利用の「心地よさ」を基準にした話し合いの方法と、その基準を生活に取り入れ、見直していくヒントをご紹介します。
なぜ「心地よさ」を基準にするのか
デジタル利用のルールを考える際、「何時間まで」「どこで使って良いか」といった制限から入りがちです。もちろん具体的なルールも大切ですが、その根底に「家族がどんな時に心地よいと感じるか」という視点を持つことは、より前向きで継続しやすいデジタルとの付き合い方につながります。
- 単なる制限からの脱却: 「ダメ」「やめなさい」といった制限は、子供だけでなく親御さんにとっても負担になることがあります。「こうしたらもっと気持ちよく過ごせるね」というポジティブな視点は、家族みんなが主体的に取り組むきっかけとなります。
- 家族一人ひとりの感覚を大切に: 「心地よい」と感じる状態は、家族一人ひとり、またその時々の状況によって異なります。家族で話し合うことで、お互いの気持ちや大切にしたい時間を理解し合う機会になります。
- 自律的な付き合い方を育む: 「ルールだから守る」だけでなく、「心地よく過ごすためにこうしよう」という意識は、子供たちが成長した時に自分でデジタルとの健康的な距離感を築く力を養うことにつながります。
家族で「心地よさ」について話し合う準備
さあ、家族でデジタル利用について話し合ってみましょう。いきなり厳しいルールを決めるのではなく、リラックスした雰囲気で行うことが大切です。
- 話し合いの場と時間を設ける: 食事中など、ついデバイスを触ってしまう時間ではなく、全員が落ち着いて話せる時間(例:週末の午前中、おやつの時間など)を選びましょう。テレビや他のデバイスはオフにしておくのが望ましいです。
- 全員が安心して話せる雰囲気作り: 「誰かを責める時間ではないよ」「みんなで一緒に、もっと気持ちよく過ごせる方法を考えようね」というメッセージを伝えましょう。子供たちの意見も大切に聞き、否定しない姿勢が重要です。
- 使う道具を用意する: 紙とペン、ホワイトボードなどを用意すると、話し合ったことを書き出して整理しやすくなります。付箋などを使って、アイデアを自由に出し合うのも良い方法です。
具体的な話し合いのステップ
それでは、いよいよ具体的な話し合いのステップです。
ステップ1:現状について感じていることを出し合う
- 「最近、デジタルデバイスを使っていて、どんな時に楽しいと感じる?」「どんな時に困るな、嫌だなと感じる?」
- 親御さん自身も、「自分がスマホを見ている時に、子供との会話が減ってしまう気がする」「夜遅くまで見てしまって、朝起きるのがつらい時がある」など、正直に感じていることを伝えてみましょう。
- 子供たちからは、「もっとゲームをしたいのに時間が短い」「お父さん(お母さん)がいつもスマホを見ていて、話しかけにくい」といった意見が出るかもしれません。大切なのは、それぞれの素直な気持ちを受け止めることです。
ステップ2:家族として「どんな時間を大切にしたいか」「どんな時に心地よいと感じるか」を共有する
- 「家族みんなで笑っている時って、どんな時かな?」
- 「家で過ごす時間、どんな風だったら一番気持ちいいかな?」
- 「週末、家族で一番やりたいことって何?」
- 「友達や親戚に、『あなたの家族って素敵だね』って言われるとしたら、どんなところかな?」
具体的な体験(公園で遊んだ時、一緒に料理をした時、旅行に行った時など)を思い出しながら話すと、よりイメージが湧きやすくなります。「みんなでトランプをしている時」「静かに本を読んでいる時」「リビングで一緒に絵をかいている時」「ご飯を美味しいねって話しながら食べている時」など、様々な「心地よい時間」が出てくるでしょう。
ステップ3:ステップ2で共有した「心地よい時間」を確保するために、デジタル利用をどうするかアイデアを出し合う
- ステップ2で出た「心地よい時間」をリストアップします。
- それぞれの「心地よい時間」を邪魔しているデジタル利用の仕方はないか、考えてみましょう。
- 「この心地よい時間を守るためには、デジタルデバイスをどうしたら良いかな?」という視点で、自由なアイデアを出します。制限だけでなく、「こんな風に使えば、もっと家族の心地よさにつながるかも」という視点も歓迎です。
- 例:「ご飯中は、みんなで顔を見て話したいから、テーブルの上にスマホを置かないようにする?」
- 例:「寝る前は絵本を読む時間を取りたいから、寝る1時間前からはスマホやゲームをやめる時間にする?」
- 例:「週末の午前中は、公園で思いっきり遊びたいから、家にいる時もスマホはカバンに入れておく時間にする?」
- 例:「リビングでゆっくり話す時間を取りたいから、この部屋では個人的なスマホ利用は控えるようにする?」
ステップ4:話し合った内容を元に、「心地よさのためのデジタル利用の基準」を形にする
- ステップ3で出たアイデアの中で、「これならできそう」「こうしたらもっと気持ちよく過ごせそうだね」と家族みんなが納得できるものを基準としてまとめます。
- 「ルール」という堅苦しい言葉ではなく、「わが家の心地よさリスト」「デジタルと仲良くするための約束」のように、ポジティブな言葉にすることも効果的です。
- 書き出したものをリビングなど目につく場所に貼っておくと、意識しやすくなります。
「心地よさのための基準」の具体例
家族構成やライフスタイルによって基準は様々ですが、話し合いの参考に、いくつか例を挙げます。
- ご飯を食べる時は、テーブルの上にデジタルデバイスを置かない。
- 寝室にはデジタルデバイスを持ち込まない(または、充電はリビングなど別の場所で行う)。
- お風呂やトイレにスマホを持って入らない。
- 家族で会話をしている時は、画面を見ないで相手の顔を見て話す。
- リビングでみんなが揃っている時は、どうしても必要な場合以外は個人的な利用を控える。
- 夜〇時以降は、家族共通の場所(例:リビングの棚)にデバイスを置く。
- 週末は、午前中〇時から〇時まではデジタルフリータイムにして、一緒に〇〇をする時間にする。
- 子供部屋での利用は、リビングなど親の目が届く場所での利用を優先する。
定期的な見直しの重要性
一度基準を決めたら終わりではありません。子供たちは成長し、家族の状況も変化していきます。決めた基準が今の家族にとって本当に心地よいものか、定期的に見直す時間を持つことが大切です。
- 月に一度、または季節ごとに一度など、見直しのタイミングをあらかじめ決めておきましょう。
- 前回の話し合いから、どんな変化があったか、良かったこと、難しかったことなどを共有します。
- 「今の基準で、家族みんな心地よく過ごせているかな?」「もっとこうしたら、もっと気持ちよく過ごせるかも?」といった視点で話し合い、必要に応じて基準を調整します。
- うまくいかなかった時も、「〇〇するのが難しかったね、次はどうしたらできるかな?」と、前向きな姿勢で改善策を一緒に考えましょう。
親自身が見本を示すこと
家族でデジタルとの付き合い方を見直す上で、親御さん自身がデジタルデバイスとの距離感を意識し、見本を示すことは非常に重要です。
- 子供の前で、不必要に長時間スマホを触らないように意識する。
- 子供に話しかけられた時は、一旦画面から目を離して子供と向き合う。
- 「今から〇〇するから、ちょっとスマホを見るね」など、自分の利用についても言葉で伝える。
- ご自身の「心地よさ」についても考え、デジタルデバイスから離れてリフレッシュする時間を持つように努める。
親御さんがデジタルと上手に付き合っている姿は、子供にとって何よりの学びとなります。
まとめ:家族みんなで心地よいデジタルライフを
「親子のためのデジタルデトックス」は、単にデバイスの利用時間を減らすことだけが目的ではありません。デジタルとの付き合い方を見直すことを通じて、家族のコミュニケーションを増やし、お互いをより深く理解し、共に心地よい時間を過ごせるようになることが最終的な目標です。
今回ご紹介した「心地よさ」を基準にした話し合いは、そのための有効な一歩となるでしょう。完璧な基準を一度に作る必要はありません。家族で話し合い、試してみて、また見直すというプロセスを大切にしてください。家族みんなで協力し合うことで、きっと、それぞれの家庭に合った心地よいデジタルとの付き合い方を見つけることができるはずです。